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September 19, 2006

取引コスト

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_/_/_/_/_/_/_/ ソフトウェア業界 新航海術 _/_/_/_/_/_/_/_/_/
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第145号 2006/9/18
▼ まえがき
▼ [グーグルの衝撃] ロナルド・コースが提唱した「取引コスト」
▼ [グーグルの衝撃] 取引コストとは市場を利用するためのコスト
▼ [グーグルの衝撃] ソフトウェア請負契約の取引コスト
▼ [グーグルの衝撃] 内製する米国、外注する日本
▼ [グーグルの衝撃] 労働者派遣契約・準委任契約と取引コスト
▼ [グーグルの衝撃] インターネットは取引コストを下げる
▼ 次回以降の予告


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まえがき
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蒲生嘉達(がもう よしさと)です。

第138号から「グーグルの衝撃」シリーズを開始しています。

このシリーズではIT業界の現在と未来について考えます。

「グーグルの衝撃」シリーズを最初から読みたい方は、
「バックナンバー グーグルの衝撃」
( http://www.kei-it.com/sailing/back_google.html )を参照して
ください。

または、ブログ( http://kei-it.tea-nifty.com/sailing/ )の
左列にあるCategories「グーグルの衝撃」をクリックして
ください。


バックナンバーは、発行者サイトまたはブログで、体系として
見てもらいたいので、「まぐまぐ!」でのバックナンバー公開は
最新号のみに変えました。

発行者Webサイト: http://www.kei-it.com/sailing/
バックナンバーブログ:http://kei-it.tea-nifty.com/sailing/

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[グーグルの衝撃] ロナルド・コースが提唱した「取引コスト」
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複雑な世界を見通すときに役立つ強力なレンズが存在します。

例えば、WEBでのマーケティングについては、ロングテール理論は
強力なレンズと言えるでしょう。

第143号「ロングテール」参照:
http://kei-it.tea-nifty.com/sailing/2006/09/post_70c5.html
http://www.kei-it.com/sailing/143-060904.html


今週号では、ロングテール理論よりもはるかに応用範囲の広い
レンズを紹介します。

ロナルド・コースが提唱した「取引コスト」です。

「取引コスト」という概念は、名前からして非常に地味な概念です。
「ロングテール」はネット上でも様々な論争が繰り広げられていますが、
「取引コスト」の方はほとんど話題にのぼりません。

例えば、先ほどグーグルで「ロングテール」で検索したところ、
3,660,000件ヒットしました。
一方、「取引コスト」で検索したところ、わずか138,000件しかヒット
しませんでした。
しかも、その138,000件の半分以上は証券会社のサイトで、「外貨
取引のコスト」という意味で使われていました。
例えば次のように・・・。

 『米ドル/円の取引を行った場合1ドルにつき、わずか1銭の
  取引コスト!!』

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[グーグルの衝撃] 取引コストとは市場を利用するためのコスト
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したがって、コースが提唱した「取引コスト」を知らない人も多いと
思います。実は私も、つい数ヶ月前に知りました。

コースの「取引コスト」の詳細については、下記URLを参照してください。
http://www.stanford-jc.or.jp/research/news-event/imai/imai030203.html

日本経済新聞で2003年2月2日から2月12日にかけて連載された「やさしい
経済学-巨匠に学ぶ『コース』」(今井賢一氏筆)というコラムが転載
されています。


製品やサービスを提供するためには、原材料費、人件費、輸送費、
資本費といった様々なコストがかかります。
今までの経済学では、これらのコストの分析ばかりしてきました。
しかし、市場での価格メカニズムを利用するためには、実は他にも
様々なコストがかかります。
「諸価格がいくらであるかが発見されねばない。交渉が行われねば
ならず、契約が書き下ろされ、検査が行われ、紛争を処理するための
取り決めが設定されねばならない」(コース)

この「市場での価格メカニズムを利用するためにかかる様々なコスト」
を「取引コスト」と呼びます。

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[グーグルの衝撃] ソフトウェア請負契約の取引コスト
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これだけ聞いても、「取引コスト」がいかに重要な概念であるか
理解できないと思います。

「取引コスト」が企業、組織、雇用などの複雑な問題を見通すために
いかに強力であるかを示すために、「取引コスト」の観点から、
ソフトウェアの請負開発について考えてみましょう
ソフトウェア会社にとって身近な問題なので、分かりやすいと思います。

請負契約では、ビル建設でもソフトウェア開発でも、納品物の価格は
市場での価格メカニズムで決まります。
ごく小規模なシステム、大手SIやメーカにぶら下がっている下請け
会社への発注の場合を除き、請負契約には「入札」や「相見積もり」
という手順が発生します。
発注側が要件を提示し、複数の請負会社が見積もりを提出します。
発注側はその中から、価格・納期・品質の観点で最も優れた業者を
選択します。

請負業者間で競争が発生するので、発注側から見ると、外注コストを
削減できます。

しかし、請負契約とは、実は取引コストが非常に高い契約形態なのです。
要件の確定、見積もりの妥当性の検討、詳細な契約書の作成、発注後の
進捗管理、納品後の検収テストといった様々な取引コストが発生します。
仕様変更が発生した場合の追加契約では、さらに同じループが何度も
発生します。
そして、失敗した場合のリスクも引き受けなければなりません。

請負開発がしばしば失敗するのは米国も日本も同じです。

参考記事:
 第63号「途中放棄の米国、品質低下の日本」
  http://kei-it.tea-nifty.com/sailing/2005/02/post_61ce.html
  http://www.kei-it.com/sailing/63-050221.html

 第73号「ファウラー氏の請負契約観」
  http://kei-it.tea-nifty.com/sailing/2005/05/post_deaf.html
  http://www.kei-it.com/sailing/73-050502.html

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[グーグルの衝撃] 内製する米国、外注する日本
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請負契約による外注の対極が、自社情報システム部門による内製です。
社員を使って作れば取引コストはゼロになります。
しかし、別のコストが発生します。長期的な人件費です。

したがって、社内で作るかどうかは、「社員を雇うことにより発生
する長期的な人件費」と「外注費+取引コスト」のどちらのコストが
高いかという問題です。

以前、マイクロソフトのPOS関係の営業マンから、次のような話を
聞いたことがあります。
「日本ではイトーヨーカドーやセブンイレブンなどの巨大な店舗
システムは、NECなどのベンダーに一括請負契約で発注される方が
一般的ですが、米国の流通業では社内で開発される方が一般的です。
したがって、社内の情報システム部の要員数は、日本より米国の方が
多いのです。」


社内の情報システム部の要員数が、日本より米国の方が多いことが
事実だとしたら、それには下記の理由が考えられます。
・日本の場合、終身雇用制がまだ生きていて、長期雇用によるコスト
 の方が取引コストよりも大きい。
・日本では、請負契約といえども、純粋な市場メカニズムで決まって
 いるわけではなく、長期的・系列的な取引で決まっており、それが
 取引コストを押し下げている。
・日本では、受注会社が頑張って大赤字になってでもやってしまうので、
 それが取引コストを押し下げている。

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[グーグルの衝撃] 労働者派遣契約・準委任契約と取引コスト
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自社での内製と請負開発による外注の中間形態として、労働者派遣や
準委任契約という形態があります。
労働者派遣の場合、発注側には長期雇用によるコストも、請負契約の
ような取引コストもかかりません。
但し、労務管理コスト、指揮命令コストは発生します。

特定派遣の場合は長期雇用によるコストを派遣会社側が負担しますが、
一般派遣の場合は派遣会社側も負担しません。

準委任契約は請負契約の一種ですが、納品物ではなくサービスに
着目した契約形態です。
労働者派遣では労務管理コスト、指揮命令コストは発注側が負担
しますが、準委任契約の場合は労務管理コスト、指揮命令コストは
受注側が負担します。

労働者派遣契約と準委任契約については下記を参照してください。

第52号「人材派遣業は指揮命令権のレンタル業」
http://kei-it.tea-nifty.com/sailing/2004/12/post_8e31.html
http://www.kei-it.com/sailing/52-041206.html

第54号「準委任と人材派遣を分かつもの」
http://kei-it.tea-nifty.com/sailing/2004/12/post_75f8.html
http://www.kei-it.com/sailing/54-041220.html


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[グーグルの衝撃] インターネットは取引コストを下げる
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取引コストという概念は、今後の組織、企業のあり方を考える上で
極めて重要です。

> 社外の企業との取引コストが上昇すれば、企業の規模は大きく
> なりがちだ。逆に、取引コストが低下すれば、企業の規模が
> 小さくなる。
> (ニコラス・G・カー著「ITにお金を使うのは、もうおやめなさい」)


そして、インターネットは取引コストを下げると言われています。

面白いところは、IT革命論派とアンチIT革命論派とでは、
「インターネットが取引コストを下げる」という点では一致して
いながら、それぞれが描く未来の組織像が正反対であると言う点です。

この点について次号以降で解説します。

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次回以降の予告
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次号以降では次のようなテーマを取りげていきます。

グーグルの衝撃シリーズ:
・ウェブサービス時代のソフトウェア会社のあり方

ゴーイング・コンサーンシリーズ:
・会社は継続しなくてもよいという考え方もある。
・メリーチョコレートを支えている人事制度。
・IPOとゴーイング・コンサーン

財務系
・資産と費用

法務系:
・コンプライアンス
・執行役の裁量の範囲と取締役会の決定権

労務系:
・裁量労働制


次号は、9月25日発行予定です。

乞うご期待!!

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本メルマガについて
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本メルマガは2003年12月8日に創刊されました。
創刊号 http://www.kei-it.com/sailing/01-031208.html で述べたとおり、
本メルマガのコンセプトは「読みものとしても面白い慶の事業計画」であり、
目的は「事業計画の背後にある基本的な考え方を語ること」です。

したがって、第一の読者としては、慶の社員(正社員・契約社員)及び
慶と契約している個人事業主を想定しています。
彼らには慶社内のメーリングリストで配信しています。

また、多くのソフトウェア会社・技術者が直面している問題を扱っているので、
ソフトウェア会社の経営者、管理者、技術者にとっても参考になると思い、
第33号(2004年7月19日号)からは「まぐまぐ!」で一般の方々にも公開する
ことにしました。
「まぐまぐ!」での読者数は2006年9月16日現在、550名です。


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